寝つけない、眠りが浅いといった睡眠障害はさまざまな体調不良につながるため、長く続くとつらいものです。睡眠障害を改善するために、投薬治療を行うこともあります。この記事では、睡眠障害の治療で使われるベルソムラ®︎について、詳しい作用や特徴、副作用や服用中の注意点を解説します。
ベルソムラ®︎とは
- オレキシン受容体拮抗薬に分類される不眠症治療薬
- 入眠障害だけでなく、夜間に何度も目が覚めてしまう熟眠障害を解消するときにも使われる
- ベンゾジアゼピン系の薬にみられるような、ふらつきや記憶障害などの副作用が少ない
- 服用中止後に不眠症状が悪化したり、離脱症状を起こしたりるす可能性も低い
ベルソムラ®︎は覚醒状態を維持する神経伝達物質であるオレキシンの受容体に結合し、その働きを阻害して脳の覚醒状態を抑えます。そのため、入眠作用だけでなく、眠りが深くなる睡眠維持・熟眠作用がもたらされます。
ベルソムラ®︎の副作用は?
- ベルソムラ®︎は記憶障害などの副作用は少なく、決められた用量を正しく服用していれば、依存性もない
- ただし、人によっては翌日になっても眠気・めまい・ふらつき・疲労感・頭痛が残ることがある
- まれに日中の過剰な眠気・脱力・金縛りのような入眠時幻覚・睡眠時麻痺が起こる可能性がある
ベルソムラ®︎服用時の注意点
- 入眠の直前に服用する
- 食事中や食事直後の服用は避ける
- カフェインは 効果を弱める可能性があるため、服用前に日本茶やコーヒー、紅茶などの摂取は控える
- ナルコレプシーやカタプレキシーなど、日中に過剰な眠気や脱力を起こす疾患を持っている方や、重い肝機能障害や脳機能障害がある方は慎重に使う
- 眠気はなくても、注意力や集中力、反射的な運動能力は低下していることがあるため、車の運転や、危険を伴う機械の操作を行う方が服用する場合は注意が必要
- 高齢者は薬の代謝が遅れやすいため、服用量は少なめにする
- 入眠だけでなく睡眠の維持にも作用するため、仮眠前や睡眠後に一時的に起きて作業をする場合には使用を控える
- 持病やアレルギーのある方、妊娠中やその可能性がある方、服用中の薬がある方、夜中に起きて仕事をする方は、医師への自己申告が必須
妊娠中の服用はできるだけ避けるのが望ましいですが、禁忌ではありません。医師とよく相談の上で服用します。また、授乳中に服用する場合は、いったん授乳を中止します。
ベルソムラ®︎と併用禁止されている薬
- 抗生物質
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- クラリス®・クラリシッド®(一般名:クラリスロマイシン)
- 抗真菌薬
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- イトリゾール®(一般名:イトラコナゾール)
- ブイフェンド®(一般名:ボリコナゾール)
- 抗エイズウイルス薬
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- ノービア®・カレトラ®(一般名:リトナビル)
- インビラーゼ®(一般名:サキナビル)
- ビラセプト®(一般名:ネルフィナビル)
- クリキシバン®(一般名:インジナビル)
- C型肝炎治療薬
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- テラビック®(一般名:テラプレビル)
ベルソムラ®︎の副作用を強めるリスクがある薬
- 高血圧・狭心症・不整脈治療薬
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- ヘルベッサー®(一般名:ジルチアゼム)
- ワソラン®(一般名:ベラパミル)
- 抗真菌薬
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- ジフルカン®(一般名:フルコナゾール)
ベルソムラ®︎の血中濃度を低下させ、作用を弱める薬
- 抗結核薬
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- リファジン®(一般名:リファンピシン)
- 抗てんかん薬
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- フェノバール®(一般名:フェノバルビタール)
- アレビアチン®、ヒダントール®(一般名:フェニトイン)
- テグレトール®(一般名:カルバマゼピン)
併用薬の血中濃度を上げてしまう恐れがある薬
- 強心薬
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- ジゴシン®(一般名:ジゴキシン)
上記のほか、安定薬や抗うつ薬など、精神・神経系に作用する薬と一緒に飲むと副作用が出やすくなることもあります。アルコールもリスクがありますので、ベルソムラ®︎の服用中は飲酒を控えましょう。
まとめ:ベルソムラ®︎は副作用の少ない睡眠薬ですが、飲み合わせに注意が必要です
- ベルソムラ®︎は、これまでの睡眠薬のように鎮静作用から眠気を誘うものではなく、覚醒状態を抑えることで自然な入眠を導くタイプの睡眠薬
- 副作用が少なく依存性はほとんどなく、安全性が高い
- 相互作用を引き起こす薬も多いため、服用中の薬がないか確認する
医師から薬剤師の方々へコメント
山本 康博 先生
処方される睡眠薬として、以前はデパス®︎などをはじめとするベンゾジアゼピン系の睡眠薬がほとんどでした。これらは効き目はとてもよいため頻用される方が多いですが、一方で依存性が強く、またいくつかの注意すべき副作用がありました。また、薬をやめると離脱症状が出ることにも注意が必要でした。
近年ではロゼレム®︎やベルソムラ®︎といった新しい作用機序の睡眠薬が登場しており、ベンゾジアゼピン系で懸念されるような副作用がないことがとても良い点です。その一方で、ベンゾジアゼピン系に慣れていた方にとってはすこし効き目が弱いと言われることが多いです。
しかし、物事には常に二面性があることから、効き目が強い薬はとても危険であるという点を意識する必要があります。私は患者さんにはそのことを説明し、加えて睡眠前の遮光やスマホを見ないことなどの生活指導を行っています。そのほうが、長い目でみれば患者さんにとって良い結果を生むことが多いと思います。