病気になったときに処方される抗生物質は、名前からくるイメージも手伝って、どんな病気にも効くと思ってしまいがちです。しかし、安易に抗生物質に頼りすぎることで思わぬリスクを生み出すことがわかっています。この記事では、抗生物質に頼りすぎてはいけない理由を解説します。
抗生物質に頼りすぎてはいけない理由は?
- むやみに抗生物質を使うと薬剤耐性菌を生み出す恐れがある
- 薬剤耐性菌にはMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)やVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)などがあり、世界中で問題となっている
- 薬剤耐性菌は健康な人には問題ないが、高齢者や病気療養中の方が感染すると、治療法がない重篤な状態を招くことがある。また、院内感染によって多くの人命が失われる恐れもある
- 薬剤耐性菌を生み出さないためには、ひとりひとりが正しい使い方を心がけることが必要
なお、薬剤耐性菌を生むもうひとつの原因として、処方された抗生物質の服用を途中でやめてしまうこともあります。膀胱炎や溶連菌感染症といった細菌感染が原因の病気で抗生物質を処方する際は、必ず最後まで飲み切らなければなりません。
風邪を引いたときに抗生物質を服用してもいい?
- 抗生物質は細菌感染に効果を発揮するため、ウイルス感染が原因の風邪には効果がない
- かつては肺炎予防のために抗生物質が処方されることもあったが、現在は肺炎予防の効果はないとされている
- 服用することで、かえって嘔吐や下痢など副作用のリスクが生じてしまう
まとめ:抗生物質に頼りすぎると薬剤耐性菌を生むリスクがあります
- 抗生物質をむやみに使うと、薬剤耐性菌を生み出すリスクがある
- 処方された抗生物質を飲み切らないことも、薬剤耐性菌を生み出す要因となる
- 現在、風邪の治療に抗生物質の処方は推奨されていない
医師から薬剤師の方々へコメント
山本 康博 先生
「風邪に抗生物質はいらない」というのは、はるか昔から医療関係者の間では周知されていると思いますが、依然として外来で抗生物質を求める患者さんは多いです。
患者さんを説得する方法として、多くの方は将来の耐性菌のお話をされますが、私はあまり効果がないと思っています。なぜなら、ほとんどの方は今現在困っている状態を何とかしてほしいのであって、将来の耐性菌の問題をされてもどうでもよく、1%でも確実に現在の風邪を治せるなら抗生物質を処方してほしいと考えがちだからです。
つらい状況から抜け出したいのは誰しも同じですから、このように考えてしまうのはある程度仕方がないことだと思います。ですので、私は患者さん自身に起きる可能性があるダウンサイドについてのお話をします。
よく「風邪」で処方される抗生物質は治療域が広く、腸内細菌叢にも作用し、下痢や嘔気などの消化器症状をもたらします。風邪が治癒した後も破壊された腸内細菌叢が回復するまでには月単位の時間がかかるという報告もあります。このように、抗生物質がが現実的に目の前の患者さんにもたらしうるメリットとリスクを伝え、ご自身で考えていただくのが大切だと思います。