不安神経症とは、特に悪いことは起こっていないのに、慢性的に悩みや不安を感じてしまう症状です。治療では、カウンセリングや向精神薬といった西洋医学的なものだけでなく、東洋医学的な知見で行われる場合もあります。この記事では、東洋医学・漢方の視点から見た不安神経症とその治療法について解説します。
不安神経症とは
- 実際には起こっていない、根拠のない悪い出来事や悩みへの恐れ・不安を、漠然と持ち続けてしまう症状
- 全般性不安障害とも呼ばれる
- 発症すると、何の根拠もないにもかかわらず悪い出来事を具体的に想像し、常に不安感にとらわれるようになる
不安症状の一例
- 自分または大切な人が、大病に侵されているのではないか
- 明日にでも、自分が住む地域を大規模な天災が襲うのではないか
- 自分または大切な人が、外出先で事故に巻き込まれてしまうのではないか
- 大切な人が、事件や事故、病気で命を落とすのではないか
漢方医学からみた不安神経症の原因は?
- 漢方医学では、不安神経症のようなストレス性疾患は「気(き)」と「血(けつ)」が十分でないため、「肝(かん)」機能が弱っている状態と表現される
漢方医学における「気」「血」「水」とは
- 気
-
- 元気や気力など、その人が持つ生命エネルギーの状態を指す言葉
- 運動や代謝、体や心を動かすのに必要なエネルギーとされる
- 血
-
- 主に血液のことを指す言葉
- 血液の流れはもちろん、赤血球や血液によって運ばれる酸素など、血液にまつわる他の要素も含む
- 肝
-
- 心(しん)、脾(ひ)、肺(はい)、腎(じん)と並び、漢方医学で「五臓」と表現される体の器官・機能のひとつ
- 肝が機能低下すると、精神状態が不安定になるとされる
漢方医学では、体の状態が精神状態と密接にかかわっていると考えます。このため、ストレスによって気力が減退すると「気」が不足し、その影響から自律神経や血流量をコントロールしている「肝」の機能も落ち込んでくると捉えます。その結果、ますます「肝」の機能が低下して「気」と「血」が不足した状態となり、「心」にまで影響してさまざまな精神症状をきたすと判断されるのです。
参考:西洋医学で考えられている不安神経症の原因
- 環境(子供の頃や、現在置かれている状況)
- 遺伝(家族または近親者に不安神経症患者がいる)
- 過去に大病や大事故などを経験している
- 前帯状回、交感神経系、大脳基底核、大脳辺縁系など脳の機能異常
不安神経症の症状改善に役立つ漢方薬は?
- 加味逍遥散(かみしょうようさん)と抑肝散陳皮半夏(よくかんさんちんぴはんげ)が使われることが多い
加味逍遥散
- 肩こりや精神不安、疲れやすいなどの精神性の神経症状のほか、冷え症や月経不順・月経痛など女性特有の不調や疾患などによく処方される
- 血の滞りや気の落ち込み・高ぶりを緩和し、心身の不調を落ち着ける作用がある
抑肝散陳皮半夏
- 血を補って自律神経を調整を助け、気・血のめぐりを良くすることでストレスの心身への影響を軽減し、自律神経を安定させる
- 精神症状の緩和や、ストレスによる胃腸の不調改善にも効果がある
まとめ:不安神経症の治療で漢方薬が使われることもあります
- 不安神経症を漢方医学の観点から見ると、気力の低下と血流の滞りから、自律神経の働きが悪くなり神経症状が出た状態と判断される
- 治療には、加味逍遥散や抑肝散陳皮半夏などが処方されることが多い
医師から薬剤師の方々へコメント
山本 康博 先生
不安神経症はとても漠然とした疾患で、医師にとって診断も難しければ、どのようにアプローチするかもとても難しいです。双極性障害やうつ病に対して使用される抗うつ薬などの向精神薬は副作用が強いことが多く、また依存性があるものも多いため、不安神経症のような漠然とした疾患に処方するのは少し躊躇されます。
一方、漢方薬には「証」という「こういう人にこの漢方を使いなさい」という概念があり、とても長い歴史があります。不安神経症のような証に対して使うとよいとされている漢方薬があり、長い歴史を越えて現在も使用され続けていることを踏まえると、効果を感じる方が多いということだと思います。
漢方薬といってもやはり副作用は存在するため、いたずらに処方するのは慎むべきとは思いますが、不安神経症のような症状でとても困っている方がいらしたら一言アドバイスすると良いかもしれません。