前立腺肥大症は、前立腺(男性の生殖器の一部)が大きくなってしまう病気です。この記事では、前立腺肥大症の治療で使われる薬の種類とともに、薬を飲んでも効果がみられない場合の治療法を紹介します。
前立腺肥大症とは
- 前立腺肥大症は、前立腺が肥大したため尿道が細くなり、排尿にかかわるさまざまな症状を引き起こす疾患
- 前立腺は男性ホルモンの影響を受けているため、ホルモン分泌が衰え始める40代前半ごろから大きくなり、加齢とともに症状が進行する
- 研究により、男性ホルモンに加え、肥満や高血圧、脂質異常症、メタボリックシンドロームなどが関係していることも判明
- 前立腺肥大の大きさや形には個人差があり、すべての患者が同じように変化するとは限らない
前立腺肥大症になるとみられる7つの症状
- 残尿感がある(排尿後もスッキリしない)
- 排尿の回数が多い(頻尿)
- 尿が何度も途切れる
- 突然強い尿意が訪れ、尿意を我慢できなくなる
- 尿の勢いが弱い
- 排尿時にいきむ必要がある
- 夜中に何度も排尿のために目が覚める
残尿感や尿が弱いなどの症状は日常生活に支障が出にくいですが、頻尿や突然の強い尿意などは、重篤化すると日常生活に支障をきたす恐れがあります。
前立腺肥大症の治療薬の種類は?
前立腺肥大症の症状を改善する治療薬として、以下の5種類があります。
α1受容体遮断薬(α1ブロッカー)
- 代表的な薬として、ハルナール®︎、フリバス®︎、ユリーフ®︎などがある
- 緊張している前立腺や尿道の筋肉を緩め、排尿をスムーズにする
- 前立腺肥大症の症状の多くは、この薬で改善することが多い
- 副作用として、血圧低下、ふらつき、逆行性射精などがある
5α還元酵素阻害薬
- 代表的な薬として、アボルブ®︎がある
- 前立腺がんの疑いがなく、単なる前立腺肥大症の場合のみ使える
- AGA治療薬で知られるフィナステリドと同様の作用を持つため、発毛効果が見られることもある
- 副作用として、勃起不全、性欲減退、肝機能障害などがある
ホスホジエステラーゼ5阻害薬
- 代表的な薬として、ザルティア®︎がある
- 尿道や前立腺の平滑筋細胞を弛緩させるため、血流の改善と酸素の供給増加が期待できる、比較的新しい薬
- 副作用として、消化不良、頭痛、ほてり、動悸などがある
抗アンドロゲン薬(抗男性ホルモン剤)
- 代表的な薬として、プロスタール®︎、パーセリン®︎などがある
- テストステロンやジヒドロテストステロンなどを抑制する
- ただし、最近では処方されることが少なくなっている
- 副作用として、性欲減退、勃起不全、消化管障害などがある
漢方薬、植物製剤
- 代表的なものに、エビプロスタット®︎、セルニルトン®︎などがある
- 症状を和らげるために使うのが一般的
- 植物製剤の抗酸化作用や抗炎症作用が注目されている
- 副作用が少なく、効き目もゆるやかに現れる
これらの治療薬による副作用の起こる確率は一般的にさほど高くありませんが、可能性がゼロではありません。
治療薬の効果が実感できないときは?
- 治療薬を服用しても症状が改善しない場合、手術が行われる(尿道から内視鏡を挿入して行う経尿道的手術が主流)
- 手術直後に出血や炎症による痛みなどが起こることもあるが、たいていは1週間程度でおさまる。ただし、こうした症状が長引く場合は感染症の可能性もあるので、早めに医師に相談する
- 手術後も定期的に診察を受け、生活習慣などの指導を受ける必要がある
経尿道的手術は、開腹手術(下腹部を切開する)と比べて患者さんの体への負担が少ないことが大きなメリットです。ただし、前立腺の大きさがあまりに大きく、経尿道的手術では改善が難しい場合は開腹手術を行うこともあります。
まとめ:前立腺肥大症の治療には筋肉を緩めるタイプの治療薬が使われることが多いです
- 前立腺肥大症の治療には、筋肉を緩めて圧迫されている尿道を広げ、排尿をスムーズにするための治療薬が使われることが多い
- 前立腺は男性ホルモンの影響を強く受ける器官であるため、以前は男性ホルモンを抑える薬が使われることもあったが、近年はほとんど使われていない
- 治療薬で十分な効果が得られなかった場合は手術で治療することもある
医師から薬剤師の方々へコメント
山本 康博 先生
前立腺肥大症の治療薬にはさまざまなものがありますがが、多くの非専門医はまずα1ブロッカーを使用すると思います。ふらつきなどの副作用は注意は必要ですが、ほとんどの場合はコントロール可能です。
むしろ注意が必要なのは、前立腺肥大症を基礎疾患にもつ患者さんの別の疾患に対する治療薬です。抗コリン作用のある多くの薬が慎重投与または禁忌であり、その中には市販の風邪薬や花粉症などに使用される抗ヒスタミン薬、気管支喘息の吸入薬、鎮咳薬や抗うつ薬が含まれます。
これらはとても使用頻度が高い薬剤で、場合によっては患者さんがOTC医薬品で購入して使用している場合もあります。前立腺肥大症状の増悪につながるため、問診する際はこのような薬剤の使用歴をお薬手帳に加えるとともに、OTC医薬品まで広げて聴取していただくとよいと思います。